予防医学

胃がんとピロリ菌 - 予防できる感染症としての胃がん

ピロリ菌

 

胃がんは日本で2番目に多いがんです。
男女別では男性で第2位、女性で第4位です。

日本人の胃がんのほとんどは、ヘリコバクター・ピロリ(ピロリ菌)という細菌が原因です。
ピロリ菌感染を治療することで、多くの胃がんを予防することができます。

この記事ではピロリ菌と胃がんの関係について、エビデンスを踏まえて分かりやすく解説しています。
日本ヘリコバクター学会のガイドラインを参考にしています。

当事者意識は強力です。
社会全体がコロナウイルス対策することで、猛威をふるっていたインフルエンザがほとんど発生しなくなりました。
特定の病気を無くすほどの影響力があります。
社会全体がピロリ菌に対策することで、ほとんどの胃がんが無くなることも夢ではありません!

 

ヘリコバクター・ピロリとは

ヘリコバクター・ピロリ (Helicobacter pylori)、いわゆるピロリ菌は、人の胃に感染する細菌です。
鞭毛(べんもう)と呼ばれる、うねった尾が特徴的な菌です。

通常の細菌は、胃酸の中で生きられません。
しかし、ピロリ菌は胃酸の中で生きる仕組みを持っています。
ウレアーゼという物質によって、ピロリ菌はアンモニアを作ることができます。
酸性の胃酸を、アルカリ性のアンモニアで中和し、ピロリ菌は胃酸の中で生存できます。

ピロリ菌は胃酸の分泌を増加させます。
そのためピロリ菌に感染していると、常に胃炎を起こしやすい状態になります。
胃炎は悪化すると胃潰瘍(いかいよう)になります。
さらにピロリ菌感染によって、胃がんのリスクが大きく上がります。

胃がんのほとんどは、ピロリ菌が原因です。

 

ピロリ菌の感染

ピロリ菌は世界中に存在し、2人に 1人の割合で感染していると推定されています。
多くの国や地域で感染しています。

ほとんどは、子どもの時期に感染します。
ピロリ菌の付いた食べ物や水を口にすることが原因です。

昔はピロリ菌を含む便などで汚染された水が、感染の原因とされていました。
衛生環境が良くなってきたため、このような感染は年々減少しています。
日本の場合、1950年代に生まれた人の40%以上がピロリ菌に感染していましたが、1980年代に生まれた人では12%にまで減少しています。

 

ピロリ菌感染によって起こること

ピロリ菌は子どもの時期に感染し、除菌しなければ一生にわたって胃に存在し続けます。
ここからはピロリ菌感染によって、どのようなことが起こるか解説します。

 

胃炎、胃かいよう

ピロリ菌が感染していることで、胃酸が増加します。
その胃酸は胃に炎症を起こし、胃炎が生じます。

胃炎の症状は、お腹(みぞおち)の痛みや不快感です。
吐き気、嘔吐を生じることもあります。

胃炎で強い炎症が続くと、傷んだ胃の粘膜にえぐれたような "くぼみ"ができます。
このくぼみができた状態が胃かいよう(胃潰瘍)です。
胃かいようになると、腹痛が生じること、そして胃に大きな出血を起こすことがあります。

大量に胃出血した場合、吐血(口から血を吐く)することがあります。
胃からの出血が起こっていると、便の色が黒くなります(黒色便: こくしょくべん)。
イカスミを食べたあとの黒い便に似ています。

胃かいようによって大量に胃出血すると、貧血を起こしたり、出血死したりする場合があります。

 

胃がん

日本人のがんで、胃がんは2番目に多く、がん死亡率では第3位です。
世界的に胃がんの発生が多い国で、胃がんは社会的に大きな問題です。

胃がんのほとんどは、ピロリ菌感染が原因です。
ピロリ菌感染によって、慢性的に胃炎が続いていると、胃がんを発症するリスクが高まります。

日本人にとって、ピロリ菌がどれだけ胃がんに影響しているかを調査した研究があります。
(N Engl J Med 2001. PMID 11556297)

胃かいようや十二指腸かいようになった 1,526人の日本人を調査した研究です。
これらの患者さんを検査すると、 1,246人がピロリ菌に感染していました。
そして患者さんを約 8年間フォローしたところ、約 3%にあたる 36人が胃がんを発症しました。
胃がんを発症した患者さんの全員が、ピロリ菌に感染していました。
最初の 1,526人のうち、ピロリ菌に感染していなかった 280人の患者さんでは、胃がんを発症したのは 0人でした。
この研究の場合、すべての胃がんがピロリ菌によって起こっていました。

実際には少数ですが、ピロリ菌が感染しなくても胃がんになる人はいます。
しかしほとんどの胃がんは、ピロリ菌感染が原因ということが示されました。

裏を返せば、社会全体でピロリ菌を除菌すると、日本からほとんど胃がんが発生しなくなることを意味しています。

長期間のピロリ感染があった場合、除菌後も胃がんを発症するリスクは残りますが、リスクを低くする効果はあります。
ピロリ菌を除菌した場合の胃がん発症率は、そうでない場合と比較して約 1/3になります。
(BMJ 2014. PMID 24846275)

 

以上から推定すると、ピロリ菌に感染している人は 8年間でおよそ 3%の確率で胃がんを発症しますが、除菌すると 1%に低下させることができると思われます。

 

ピロリ除菌と胃がん予防

 

MALTリンパ腫 (胃粘膜関連リンパ腫)

MALT(マルト)リンパ腫という、リンパ腫の一種です。
聞き慣れない病名ですが、血液疾患の一つです。

血液疾患であるリンパ腫の多くはリンパ節という部位にできますが、MALTリンパ腫は胃粘膜にできます。
通常の胃にはリンパ腫ができる組織はありませんが、ピロリ菌に感染していると、血液中のB細胞というリンパ球が反応して集まります。
リンパ腫の中では悪性度の低いものですが、血液腫瘍なので治療が必要です。

早期のMALTリンパ腫は、ピロリ菌の除菌で治ることが多いです。
ピロリ除菌で 8-9割のMALTリンパ腫が治療できると言われています。

 

ピロリ菌の検査

ピロリ菌に感染しているかどうかは、いくつかの検査で調べることができます。
スクリーニング検査は、中学生から受けることができます。
それぞれの検査には長所と短所があり、実際の検査法は受診した医療機関で相談しながら決めることになります。

ピロリ菌の検査は、検診施設や消化器内科で受けることができます。

 

呼気検査

尿素呼気検査と呼ばれる検査です。
ピロリ菌によって分解される物質(標識尿素)を含む薬剤を飲みます。

胃の中にピロリ菌が存在すると、標識尿素が分解されて、息に分解産物が出るようになります。
息に分解産物が含まれているかどうかで、ピロリ菌の感染を検出する検査方法です。

 

血液検査、尿検査

ピロリ菌に感染すると、血液中に抗体という、免疫反応が起こった証拠となるタンパク質が現れます。
この抗体があるかどうかを調べる検査方法です。

同様に尿検査でも、尿中にピロリ菌に対する抗体があるかどうかを調べられます。

 

便検査

便にピロリ菌由来の物質(抗体)が含まれているかどうかで、ピロリ菌感染を検出する方法です。

 

内視鏡

上部消化管内視鏡、いわゆる胃カメラです。
胃カメラで胃から十二指腸の中を観察しつつ、胃の中の要素を取り出して検査することができます。

胃粘膜の組織を小さく取って検査する(生検)ことができ、実際に検体を顕微鏡で確認したり、細菌培養でピロリ菌の有無を確認することができます。

 

検査を受けるべきか

ピロリ菌は感染率が高いとは言え、若い人ほど感染率が減少してきています。
すべての人が絶対に検査を受けたほうがよい、と推奨するだけのエビデンスはありません。

年齢の目安では、50歳以上の方はピロリ菌の検査を受けることが推奨されています。
年齢的に胃がんのリスクが高い世代ですので、内視鏡(胃カメラ)で胃がんの有無を確認するとともに、ピロリ菌感染の検査を受けた方がよいでしょう。

それ以外の人では、以下の場合に検査を受けることが推奨されます。

胃かいよう、十二指腸かいようがある。または、これらの病気になったことがある。

鎮痛薬やアスピリンを長期内服する必要がある。

家族に胃がんになった人がいる。

 

胃かいようや十二指腸かいようになった人は、その原因がピロリ菌かもしれません。
また、これらの病気は胃がんを発症するリスクになります。

NSAIDと呼ばれる鎮痛薬やアスピリンは、胃炎や胃かいようのリスクになります。
すでにピロリ菌に感染している場合、胃粘膜障害の程度が強くなったり、大出血のリスクになりますので、長期内服の前に検査するのが良いでしょう。

家族に胃がんになった人がいる場合も、ピロリ菌検査を推奨します。
ご家族の方の胃がんはピロリ菌が原因である可能性が高いです。
また、ご家族の方がピロリ菌感染している場合、ご自身も感染している可能性が高いことになります。

 

ピロリ菌の除菌

どんな場合にピロリ菌を除菌すべきでしょうか?
ピロリ菌に感染していることが分かれば、すべての患者さんで除菌した方が良い、というのが答えです。

ピロリ菌に感染しているだけで、胃炎や胃かいようを生じやすい状態になります。
また日本人はピロリ菌によって胃がんを発症する確率が高いので、必ず除菌したほうが良いでしょう。
次世代にピロリ菌感染を引き継がなくなることもメリットです。

■ピロリ菌の除菌が強く勧められる疾患
ピロリ菌感染による胃炎
胃かいよう、十二指腸かいよう
早期胃癌に対する内視鏡治療後の状態
胃MALTリンパ腫
胃過形成性ポリープ
機能性ディスペプシア
胃食道逆流症
免疫性血小板減少性紫斑病
鉄欠乏性貧血

以上はヘリコバクター学会のガイドラインによる推奨です。
難しい病名がいくつかありますが、基本的にはピロリ菌に感染していることが分かったら除菌が良いと考えられます。

 

ピロリ菌感染症の治療方法

ピロリ菌感染症は『3剤併用療法』という方法で治療します。

文字通り、3種類の薬を内服する治療です。
治療期間は 7日間が基本です。

1つ目の薬は、プロトンポンプ阻害薬という薬です。
この薬は胃酸を減らし、感染によって傷ついた胃粘膜を回復させます。
細菌はプロトンポンプ阻害薬以外にも、同様の効果で胃酸を減らす薬も選択されます。

2つ目と3つ目の薬はどちらも抗菌薬で、ピロリ菌を殺菌する薬です。
抗菌薬については専門性が高い内容ですので、治療を受ける方が特に考えなくても大丈夫です。
処方された薬を確実に内服することが重要です。

ピロリ菌の治療は、確実に薬を飲みきることが大事です。
抗菌薬に耐性を持つピロリ菌が増加しているので、治療は中途半端にならないようにします。

初回の治療で除菌できる確率は、7~9割です。
治療期間が終わったら、除菌できているか検査で確認します。
もし初回の治療で除菌できていなければ、薬を変えて 2回目の治療を行います。

 

日本人とピロリ菌

世界中でピロリ菌に感染している確率に、大きな違いはありません。
それなのに日本人は、ピロリ菌感染によって胃がんが起こりやすいという特徴があります。
なぜでしょうか?

一つの理由は、食事に含まれる塩分です。
日本人の食事は、世界的にみても塩分が多いことが特徴です。

ピロリ菌は塩分の多い食事をしている人に感染しやすく、そして塩分の量が多いほど胃がんを発症するリスクが高いことが知られています。
日本の食文化はピロリ菌に感染しやすく、そして胃がんを発症しやすいものと言えるでしょう。

日本人にとって塩分を減らすことには、健康上の大きなメリットがあります。
ピロリ菌感染と胃がんのリスクについても減塩することが有効です。
そして塩分を減らすことで、心臓病や脳卒中の原因となる高血圧を避けることができます。

1日に摂取する塩分の量は、高血圧ではない人で11グラム以下、高血圧の人は 6グラム以下が推奨されています。
実際には塩分はもっと少なくても良く、WHOは 1日に 2グラム摂っていればよい、としています。

馴染みのある食事を変えることは難しいですが、健康のために塩分を減らすべきであるのは確かです。
生活の中で、塩分の量を減らすように意識しましょう。

 

まとめ

この記事ではピロリ菌感染、それによる症状および胃がんとの関係について解説しました。
ピロリ菌の除菌によって、ほとんどの胃がんは予防することができます。

ピロリ菌を除菌して、胃がんのリスクを無くしましょう!

この記事のまとめです。

まとめ

日本で胃がんは2番目に多いがん。そのほとんどはヘリコバクター・ピロリ(ピロリ菌)という細菌が原因になっている。

ピロリ菌に感染していると、胃炎や胃かいようになりやすい。さらに胃がんを発症するリスクが大幅に上がる。

ピロリ菌は子どもの時期に感染する。除菌しないと一生感染し続ける。

ピロリ菌の感染者数は年々減少している。

ピロリ菌に感染していると、8年間で約 3%の確率で胃がんを発症する。この確率は除菌することで 1%に減らすことができる。

日本人は他国と比べて、ピロリ菌感染によって胃がんを発症する確率が高い。

ピロリ菌感染の有無を検査する方法はいくつかある。呼気検査、血液・尿検査、便検査、内視鏡検査が選択される。

ピロリ菌感染の検査を受けることが推奨されるのは、50歳以上の人、胃かいようや十二指腸潰瘍になった人、鎮痛薬やアスピリンを長期内服する人、家族に胃がんの方がいる人である。

ピロリ菌の除菌は3剤併用療法と呼ばれる方法で、飲み薬で行う。7日間で治療が完了し、除菌に成功する確率は7~9割である。

 

 

 

  • この記事を書いた人

眞喜志 剛

Save Bookの運営者です。ウェブサイトを通じて、エビデンスに基づいた医学の知識を一般の方も使えるようにすることを目指しています。 救急医、集中治療医。 ドクターヘリで活動するフライトドクター。 2009年 奈良県立医科大学卒業。 2021年 名古屋商科大学大学院ビジネススクール卒業。 日本救急医学会専門医 | 日本集中治療医学会専門医 | MBA

-予防医学

© 2024 Save Book