一般 医学

正しい知識とエビデンス

データのイメージ

はじめに 大事なこと

Save Bookが伝えたい、正しい知識とエビデンス。
それをお伝えする前に、必ず知ってほしい大事なことがあります。

それは『正しい知識やエビデンスは、従わなければならないルールではない』ということです。

特に人に自分の希望を要求するためにエビデンスがあるのではありません。
あくまでも信頼できる健康管理のために使える手段です。

時にはSave Bookで公開している情報と、皆様に直接関わっている医療者の言っていることが、違っているかもしれません。
その場合は、皆様に直接関わっている医療者の言うことを優先してほしいと考えています。
皆様のことを直接みている人の方が、個別の事情や実現可能なことを総合的に考えられるからです。

多くの医療者は、皆様にとって良いことを考えて提案してくれています。
その信頼関係に悪影響を及ぼしたくありません。
Save Bookが公開している知識は、皆様自身が生活の中で実践するためのものです。
エビデンスはそのためにあります。

この記事では『エビデンス』とはどういうものか、正しい知識とはどのようなものかを説明しています。
分かりやすい説明を心がけていますが、元々が難しい話ですので、十分に理解できないかも知れません。
『エビデンスに基づいている』ということは信頼でき、確実性の高い情報であることを理解していただければ大丈夫です!

 

伝えられる知識

Save Bookが皆様に伝えられる知識は2種類あります。

1つ目:医学的な一般知識です
2つ目:エビデンスに基づいた知識です

 

医学的な一般知識

これは医師が基本として持っている知識で、その正しさを証明することなく使っているものです。
これまでに発展してきた医学、そして生物学の知識に基づくものです。
科学としての医学に結びついている知識です。

『心臓が止まると、人は生きられない』と言ったようなことが該当します。
なにか研究で示すまでもなく、医学的に妥当といえるものです。

当ウェブサイト Save Bookでは、このような知識についてはできるだけ『意見』または『オピニオン』という言葉を添えて提供します。
医師として伝えられる、医学の知識として認識していただければ幸いです。

 

エビデンスに基づいた知識

言葉を厳密に使うために『エビデンスに基づいた知識』と表現しています。
伝えたい知識なので、単に『エビデンス』とは言えません。
ここらへんの言葉の定義は、皆様にとってあまり重要なものではありませんので、何となく理解できればOKです。

エビデンスというのは科学的な事実のことです。
ここでは医学において、何らかの研究や検証で事実確認されたもの、という意味になります。

 

例 心不全の研究

エビデンスの例をお示しします。
心不全になると心臓の機能が低下し、血液を全身に循環する機能が低下します。
そのような状態に対しては心臓の機能を強化する薬剤が有効だ、と以前は考えられていました。
ジギタリスなどの強心薬が心不全に有効と考えられていましたが、実際にデータをとってみると、死亡率などを改善する効果が認められませんでした。

さらに意外なことが研究で判明しました。
心臓の機能を抑制するβ遮断薬という種類の薬を投与していた人々の方が、死亡率が低くなり、入院率も低くなっていました。
『心不全にβ遮断薬を投与していた人々は、そうではない人々と比較して死亡率が低く、入院率も低かった。』
これが研究によって示されたエビデンスです。
このエビデンスにより、現在ではβ遮断薬は心不全の標準治療の一つになっています。
かつては心不全の人に、心臓の機能を抑制する薬剤を投与することなんて考えられなかったことですが、研究によって実は有効な治療となることが判明したのです。
(Ann Intern Med. 2001: PMID 11281737)

 

エビデンスの良し悪し

科学的に検証され、確認された事実であることは、その事実を信用してもよさそう、という印象を与えます。
しかし医師や研究者の目線では、「その事実は文句なしに信用してよさそうだ」と思えるものから、「これは科学的な証明としては不十分だ」と思えるものまで、様々なレベルのエビデンスがあります。

いくつか例を挙げて、エビデンスはあるけれど、その有効性まで保証されないもののことを説明してみます。
すこし難しい内容です。

 

本当の効果が少ない

たとえば『致死的な○○という病気の発症率を 50%下げるエビデンスがある治療薬』があったとします。
かかると確実に死亡するような病気の発症率を50%も下げるなんて、すごい薬だと思えます。
誰もが求める薬でしょう。

ところが、その病気にかかる可能性が極めて低かったら?
もともと1,000万人に一人の病気だったら、この薬は誰もが求める薬でしょうか?
確率的に1億2,000万人いる日本人の12人がかかる病気で、すべての国民が内服していると患者数が6人に減ります。
これは大きな効果がある、とは言えない気がします。

逆にこの致死的な病気が大流行して、10人に一人がかかる病気だったらどうでしょうか。
自分がかかる可能性も無視できません。
そんな病気の死亡率が50%に下げられるのなら、素晴らしい効果をもつ薬と言えるでしょう。

ここでは『エビデンスがある』ことと『効果が高い』ことは異なることが分かりました。

 

間接的な効果を示したエビデンス

たとえば『99.9%を除菌する』とか、『空気中のウイルスを 99.9%減らす』といった薬品があったとします。
その商品について、『実験によって99.9%の除菌率を確認した』というエビデンスが紹介されています。
これを使えば、自分はほとんど感染しなくなるように思えます。
そうなのでしょうか?

このエビデンスが示している事実は、『病原体が99.9%減る』ことです。
『感染率が99.9%減る』ということは示していません。
感染力が強く、残った 0.1%のウイルスが十分な感染力を持っているのであれば、この薬品は有効と言えるのでしょうか?

これは『代理アウトカム』と言います。
アウトカム (outcome)は日本語にすると『結果』という意味ですが、ここでは『関心のある事項についての結果』のことです。
この例の場合、『〇〇ウイルスの感染症にかかる可能性が大きく減る』というのが本当に求められているアウトカムです。
しかしエビデンスは『〇〇ウイルスの数を 99.9%減らす』ということを示しているのです。
ウイルスの数が減ると、感染する可能性が減りそうな気がするのは医療者の目線でも同じですが、〇〇ウイルスの感染症を減らすという事実が確認されない限り、この商品の有効性は示せたことになりません。
本当に求められているアウトカムの代わりに、それに関係するであろう事柄についてのアウトカムを『代理アウトカム』と呼びます。

 

事実の示し方に難がある

例えば、血液型によって性格が違うことを示したい、と思ったとしましょう。
『○○という課題をやらせて、B型は集中力が途切れるのが早い』ということを実験で示したい、と考えます。

実際にA型、B型、AB型、O型の子供を1人ずつ集め、課題をやらせてみました。
そうするとB型の子供が一番早く課題を中断して、他のことをやり始めました。
やっぱりB型は集中力が途切れるのが早い!
本当にそうでしょうか?

これは参加者の数が合計 4人と、非常に少ないことに難があります。
それぞれの血液型について 1人しか検証していません。
たまたまこの実験ではB型が先に課題を中断しただけで、もしかすると他の血液型が先に課題を中断したケースも考えられます。

もしも各々の血液型の人を500人ずつ、合計で 2,000人に参加してもらい、それでもB型のグループが他のグループよりも先に課題を中断したことが示されたら、本当にB型の人は集中力が途切れやすい、と言えそうです。
(筆者の知る限り、血液型によって性格に一定の傾向がある、ということを医学的に示したエビデンスはありません)

この例では参加者の数が問題でしたが、他にも『効果の差の決め方が問題』や、『グループの分け方が問題』など、いろんな問題があります。
それぞれの問題に気がつくかどうか、これは普段から職業的に慣れていないと難しいものです。

 

よいエビデンスを得るために

先程までは不十分なエビデンスの例を紹介しました。
エビデンス、といっても無条件に信用してよいわけではない、というお話でした。

一方で本当に優れたエビデンスも多くあります。
それらは医学のあり方を変えて、世の中を良くすることに貢献しています。
このようなエビデンスは、どうやって見分けるのでしょうか?

結論を言えば、それは専門職に任せるのがいい、ということになります。
Save Bookでは医師である筆者が、医師の誇りをかけて、責任を持って、良質なエビデンスをお伝えします。
医師だから分かること、ということに責任を持つことがプロフェッショナリズムだと考えています。
皆様の健康にとって、本当に役に立つことを基準に選択し、情報を公開します。

 

権威のある医学誌、科学誌に掲載された論文

ネイチャー
サイエンス
ニュー・イングランド・ジャーナル・オブ・メディシン
ランセット
このような雑誌の名前を、皆さんはお聞きになったことがありますか?

これらは医療界や科学の業界で、世界的に権威のある雑誌です。
ここに掲載される論文は世界中の人に読まれ、研究結果を発表すると世界中に大きな影響を及ぼします。
これらの雑誌に論文を投稿し、掲載されることは、世界中の研究者の夢になっています。

したがって掲載される基準は非常に厳しくなります。
十分な科学的妥当性が伴っていなければ、そして科学的なインパクトを伴っていなければ、掲載されることはありません。

他にも医学の業界には、5大医学雑誌や、各分野の中心となる世界的な雑誌があります。
これらの雑誌は威信をかける必要があるので、必然的に質の高い論文しか載せられません。
筆者はPubMedという医学論文のデータベースを運営するサービスにかつて実装されていた『clinical core journal』フィルターで選別される医学誌を一つの基準として参考にしています。(2020年にこのフィルターが公式に提供されなくなったため、検索窓にjsubsetAIMと追加しなければ使えなくなりました。)
つまり世界的にその質の高さと信用性が認められている、代表的な医学誌と考えています。
このSave Bookで論文や研究結果を紹介する場合、なるべくこの基準を満たしたものから選ぶようにしています。

 

時間をかけて重要性が確認されたエビデンス

本当に重要で、影響力の強いエビデンスは多くの専門家に知られます。
何度も他の研究発表に引用されたり、診療ガイドラインの根拠になったりします。
時間が経過すると、専門家によって価値が認められたエビデンスだけが残っていきます。

こうして重要性が確認されることも、良いエビデンスを選択する基準になります。
医師という集団は誠実で、慎重で、良い診療をするために負けず嫌いです。
その集団が形成する人格は、本当に人々の人生を良くするエビデンスを選択しているものだと信じています。
Save Bookは、そうやって選択されたエビデンスの質を信頼しています。

余談ですが、筆者がとても感銘を受け、医師であることに誇りを感じられた TEDトークを紹介させていただきます。

 

情報の妥当性を示す

ここまででお伝えしたように、Save Bookでは医学的・科学的に妥当な情報を提供しています。
その妥当性を示すために、可能な限り情報源を明示するようにしています。

たとえば、このような記述です。
(BMJ. 2020: PMID 32699132)

これは『BMJという雑誌に2020年に掲載された論文です。PubMedで32699132という IDを割り付けられています』という意味です。
難しいですが、医師や研究者はこの記述から情報源にアクセスすることができます。
皆様が直接アクセスして読むことはないと思います。
これはSave Bookが確かな根拠をもとに情報を公開している、という証明だと思ってください。

他にも外部リンクや URLを明示して、情報源にアクセスできるようにもしています。
日本の厚生労働省や、世界のWHOなど、ガイドラインや統計情報、信頼できる情報のソースを明示しています。
そして少しでも分かりやすいように、情報源は日本語対応しているものを優先的に選んでいます。
下のようなリンクで明示します。

新型コロナウイルス感染症 (COVID-19) WHO公式情報特設ページ

 

 

おわりに

正しい医学知識、そしてエビデンスについて説明させていただきました。
Save Bookは皆様の健康な人生に、本当に貢献できる情報を公開できるように努めます。

冒頭でもお伝えしたように、ここで紹介されている知識は皆様のためのものです。
唯一絶対のルールという性質はありませんので、これをもとに信頼できる人と衝突してほしくありません。
Save Bookは皆様の近くにいる医療者の方が、皆様のことを深く理解して健康管理の提案をしてくれることを信じています。

皆様がここで得た知識を、親しい人を良い方向に導くために紹介してくださることは大歓迎です。
よい情報を共有し、みんなで行動すれば世界は変わります。

幸福な人生のために、良い知識を身につけましょう!

  • この記事を書いた人

眞喜志 剛

Save Bookの運営者です。ウェブサイトを通じて、エビデンスに基づいた医学の知識を一般の方も使えるようにすることを目指しています。 救急医、集中治療医。 ドクターヘリで活動するフライトドクター。 2009年 奈良県立医科大学卒業。 2021年 名古屋商科大学大学院ビジネススクール卒業。 日本救急医学会専門医 | 日本集中治療医学会専門医 | MBA

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