予防医学

HPVワクチン 子宮頸がんを予防するワクチン

 

この記事では女性の子宮頸がんと、その原因となるヒトパピローマウイルス (HPV)、そしてワクチンによって子宮頸がんを予防できることについて説明します。
子宮頸がんは感染症によって発生するがんです。
ワクチンで予防することができます。

一人でも多くの人が、ワクチンによって子宮頸がんから守られることを願っています。

 

ヒトパピローマウイルス(HPV)とは

ヒトパピローマウイルス (Human papillomavirus: HPV)は性感染症を起こすウイルスです。
100種類以上のHPVが確認されており、いくつかのタイプのHPVが健康問題に関連しています。

HPVの16型と18型が特に重要です。
これらのHPVは女性の子宮頸がん(しきゅうけいがん)の原因になります。
子宮頸がんの約70%が、HPV 16型と18型によって発生しています。

さらに31型, 33型, 45型, 52型, 58型も子宮頸がんの原因になっており、これらを合わせると子宮頸がんの 90%以上がHPV感染によって発生していることになります。

また6型と11型は、尖圭コンジローマという陰部のイボの原因になっています。
これらは女性にも男性にも尖圭コンジローマを発生させます。

16型と18型は女性の子宮頸がんだけではなく、男女に共通して肛門のがんや喉のがんを生じる原因にもなります。

これらの原因になるヒトパピローマウイルス感染は、ワクチンによって予防することができます。

 

子宮頸がん

子宮頸がん(しきゅうけいがん)は、子宮頸部(しきゅうけいぶ)という子宮の入り口にできるがんです。
子宮頸がんの 9割以上で、ヒトパピローマウイルス感染が原因になっています。

国立がんセンターによるデータ(2017年)によると、一生のうち子宮頸がんになる人は、女性 1万人あたり 132人(75人に1人)です。
子宮頸がんで亡くなる人は、女性 1万人あたり30人 (333人に1人)です。
治療できた場合も、その後の流産や早産のリスクが高くなることがあります。
場合によっては子宮を失ってしまうこともあります。

20~40歳の女性がかかりやすいがんです。

 

HPVの感染経路

ヒトパピローマウイルス(HPV)は性感染症をおこすウイルスです。
性交渉(セックス)によって感染します。

粘膜同士が接触することで感染します。
性器と性器の接触だけではなく、口と性器、肛門と性器の接触でも感染します。

コンドームを使用することで、HPVの感染率を減らすことができますが、完全に防ぐことはできません。
しかしコンドームは他の性感染症を防ぐことができるので、安全な性交渉のために有効です。

HPVの感染力は強く、一度感染してからではワクチンの効果がありません。
はじめて性交渉する前に、ワクチンを接種することが重要です。

 

HPVワクチンについて

ここからはヒトパピローマウイルス (HPV)感染を予防するHPVワクチンについて説明します。

 

HPVワクチンの概要

HPVワクチンは、ウイルス (HPV) の表面を包んでいる殻 (外殻)を人工的に合成したものです。
ウイルス自体を使っていないので、ワクチンが原因でHPVに感染することはありません。

人の免疫システムが外殻を認識すると、外殻に対して免疫反応を起こせるようになります。
体内にHPVの外殻に対する免疫を準備しておくことで、実際にHPVが入ってきたときに感染を防ぐことができます。

 

HPVワクチンの種類

2022年3月の時点で、日本で利用できるHPVワクチンは 3種類あります。
それぞれ予防できるHPVの型が異なります。

サーバリックス® (2価)
16, 18型

ガーダシル® (4価)
6, 11, 16, 18型

シルガード9® (9価)
6, 11, 16, 18, 31, 33, 45, 52, 58型

このうちサーバリックス®(2価)とガーダシル®(4価)は、定期接種として公費で受けることが出来ます(無料です)。
シルガード® (9価)は定期接種の対象ではありませんでしたが、2022年3月4日に定期接種になる方針が決定されました。
子宮頸がんの予防効果は4価ワクチンで 7割くらい、9価ワクチンで 9割以上です。

接種方法は筋肉注射です。
インフルエンザワクチンと同じです。
痛みの強さも同じくらいです。

 

HPVワクチンの効果

上記の 3種類の HPVワクチンによって、多くのHPV感染を予防することができます。
ただし既にHPVに感染している場合は、ワクチンでHPV感染症を治療することはできません。
一度でも性的接触があるとHPVに感染する可能性がありますので、はじめて性交渉する前の若い年齢でワクチンを接種しておくことで、最大の予防効果が得られます。

3種類のワクチンは、いずれも子宮頸がんの最も多い原因である HPV 16型と 18型の感染を予防することができます。
4価と9価のワクチンは、尖圭コンジローマの原因となる 6型と 11型の感染も同時に予防することができます。

子宮頸がんの予防効果は、4価ワクチンで 7割くらい、9価ワクチンで 9割以上です。

ワクチン接種によって、子宮頸がんの発生が減少するというエビデンスが存在します。
(N Engl J Med 2020. PMID 32997908)
スウェーデンで 10~30歳の女性 167万人を調査した研究です。
17歳までにHPVワクチンを接種した人では、子宮頸がんの発生率が 88%減少しました。

逆に社会全体がワクチン接種に消極的だった場合に、子宮の細胞診で異常が増加したというエビデンスもあります。
(Lancet Reg Health West Pac. PMID 35024658)
細胞診での異常とは、がんになる可能性が高い細胞の存在を検出していることを意味します。

これは日本での研究です。
日本では2013年 (平成25年)の6月から2021年 (令和 3年)の11月まで、HPVワクチン接種の積極的勧奨を差し控えていました。
1999年度までに生まれた世代では6~7割の人がHPVワクチンを接種していましたが、2000年度以降に生まれた人ではワクチン接種率が激減しました。
上のグラフは、生まれ年度ごとのワクチン接種率と、検診での細胞診の異常率を示したものです。
ワクチン接種率が高い世代では検診で細胞診異常率が低いのに対して、ワクチン接種率が低い2000年度生まれの人は細胞診異常率が高いことが示されています。

これらのエビデンスは、HPVワクチンによって子宮頸がんが減少すること、そしてHPVワクチンを接種していないと子宮頸がんのリスクが高まることを示しています。

 

HPVワクチンの有効期間

2022年3月時点では、HPVワクチンによる予防効果は少なくとも 9.5年は続くと考えられています。
HPVワクチン接種者をフォローアップしている期間がさらに長くなれば、有効期限もさらに長いと示される見込みです。

HPV感染の機会が多い年齢をカバーするのに十分な有効期間があると考えられており、実質は一生を通しての予防効果があると期待されています。

 

接種対象と接種時期

HPVワクチンの定期接種は、小学校6年生~高校1年生に相当する年齢の女性が対象です。
年齢にすると12歳~16歳になる年度の女性が対象です。
一度でも性交渉があるとHPVに感染する可能性がありますので、はじめて性交渉する前の若い年齢で接種しておくことで、最大の予防効果が得られます。

17歳以上の女性にも接種するメリットはあり、まだ感染したことがない型のHPVに対する感染予防効果が得られます。
性交渉の経験があっても、まだ感染したことがないHPVの型に対してはワクチンで予防することができます。

17歳~26歳の人に、ワクチンを接種するメリットがあると考えられています。
それ以上の年齢の人でも、生活の仕方によって個別にメリットの大きさが判断されます。
接種希望の方は医療機関に相談することをおすすめします。

 

キャッチアップ接種 (2022年4月 ~ 2025年3月)

前述のように、日本ではHPVワクチン接種の積極的勧奨がされていなかった時期がありました。
この時期にワクチン接種の機会を逃した人に対する『キャッチアップ接種』が実施されます。

キャッチアップ接種が行われる期間は、2022年4月から2025年3月までの 3年間です。
対象となるのは1997年度から2005年度に生まれた全ての女性です。
この期間であれば、対象となる人は公費でワクチン接種を受けることができます(無料です)。

 

HPVワクチンの接種スケジュール

HPVワクチンは 3回接種されます。
定期接種の対象になっているサーバリックス®(2価) とガーダシル®(4価) について説明します。

HPV vaccine schedule

 

サーバリックス®は 1回目の接種から数えて、1ヶ月後に 2回目を、6ヶ月後に 3回目を接種します。
たとえば 1回目が 4月1日だった場合、5月1日に 2回目を、10月1日に 3回目を接種します。

ガーダシル®は 1回目の接種から数えて、2ヶ月後に 2回目を、6ヶ月後に 3回目を接種します。
たとえば 1回目が 4月1日だった場合、6月1日に 2回目を、10月1日に 3回目を接種します。

日数が多少前後しても問題ありません。
具体的なスケジュールは、接種する医療機関で相談することになります。

 

ワクチンの副作用とエビデンス

HPVワクチンは、その副作用と安全性が話題になった経緯があります。
そのためHPVワクチンを接種することに不安を感じている方も多いと思います。

重要なことを先に述べておきます。
HPVワクチンは安全性が高いワクチンです。

HPVワクチンについては、科学的根拠なくリスクばかりが過大に報じられました。
そして HPVワクチン接種の積極的勧奨が差し控えられたことによって、世界で日本だけがHPVワクチンの接種率が低い国になってしまいました。
これは国全体の健康管理として危険な状態であると、世界保健機関 (WHO)から批判されました。

医療に関わるプロフェッショナルたちは、できるだけ多くの人がHPVワクチンを接種してほしいと考えています。
明らかにワクチン接種するメリットのほうが大きいからです。

 

よくある副作用

HPVワクチン接種後には、他のワクチンを接種した時と同様の症状が出ることがあります。

多いのは注射した部位の痛みや腫れです。
通常は3日以内に、自然に治ります。
特別な治療は不要ですが、アセトアミノフェンやロキソプロフェンなどの鎮痛薬は有効です。

他に挙げられる症状として、失神があります。
これは痛みや不安によって生じる失神で、迷走神経反射と言う現象です。
点滴のために針を刺した場合にも生じます。
若年者にも迷走神経反射が起こりやすいため、注射後の15~30分は安静にして待機することをおすすめしています。

めまいや吐き気も同様の副作用です。
多くはワクチン接種後の心理状態と、それにともなう自律神経の反応から症状が出ます。

余談ですが、ワクチン接種後の心理状態と自律神経の反応による影響を、接種ストレス関連反応 (immunization stress related responses: ISRR)と言います。

 

多様な症状

HPVワクチンの副作用をまとめて「多様な症状」ということがあります。

「多様な症状」とは、本人は症状を自覚していますが特定の異常は見つからない、原因不明のものです。

この「多様な症状」について、HPVワクチンとの関連性を調査した有名な研究が 2つあります。
1つ目が祖父江班による研究、と呼ばれる全国疫学調査で、全国 18,000以上の診療科を対象に調査したものです。
2つ目がNagoya Study (名古屋スタディ)と呼ばれる研究で、名古屋市の9~14歳女性 70,000人以上を対象にしたアンケート調査です。

どちらの研究も、HPVワクチンと「多様な症状」には因果関係がない、という結論になっています。
「多様な症状」は、HPVワクチンを接種していない人にも同じくらいの確率で発生しているということです。

名古屋スタディでは、24項目の症状を「多様な症状」としていました。
(Papillomavirus Res 2018. PMID 29481964)

1. 月経不順 9. 光を異常にまぶしく感じる 17. 物覚えが悪くなった
2. 月経量の異常 10. 視力が急に低下した 18. 簡単な計算ができなくなった
3. 関節や体が痛む 11. めまいがする 19. 簡単な漢字が思い出せなくなった
4. ひどく頭が痛い 12. 足が冷たい 20. 身体が自分の意思に反して動く
5. 身体がだるい 13. なかなか眠れない 21. 普通に歩けなくなった
6. すぐ疲れる 14. 異常に長く寝てしまう 22. 杖や車いすが必要になった
7. 集中できない 15. 皮膚が荒れてきた 23. 突然力が抜ける
8. 視野の異常 16. 過呼吸 24. 手や足に力が入らない

これらの「多様な症状」は、HPVワクチン接種と関連が認められなかった、と結論づけられています。

 

■ 日本でHPVワクチン接種が積極的勧奨されなかった時期について

2013年4月、日本でHPVワクチンが定期接種の対象になりましたが、わずか 2ヶ月後の 6月、積極的勧奨が中断されました。
理由としては、HPVワクチンが原因で重篤な症状が発生する、という印象が持たれたことです。
(実際には上述のように、HPVワクチンには重篤な症状と明らかな関連性はありません。)

HPVワクチン接種後に重篤な症状を発症した事例が、科学的な根拠を欠いたまま「HPVワクチンの副作用」として報道されたり、インターネットで話題になったりしました。
そのため日本国内ではHPVワクチンに対してネガティブなイメージが持たれました。
厚生労働省も 2013年6月に積極的勧奨を中止するに至りました。

HPVワクチンを接種するメリットのほうが明らかに大きいにも関わらず、ワクチン接種の積極的勧奨を中断した日本の対応は、WHOから批判されました。
その後、HPVワクチンは安全だと示すエビデンスによって安全性が認識され、2022年4月からは積極的勧奨が再開されることになりました。
積極的勧奨が中断されていた 9年間でワクチン接種の機会を逃した世代に対し、2022年4月からの 3年間でキャッチアップ接種が行われることになりました。

この事例は、日本における医学への認識のあり方を浮き彫りにしていると感じます。
メディア報道やインターネットでの意見、政治的判断は、科学的な妥当さに基づいてなされるのが、望ましいあり方です。
社会全体が正しく合理的な判断をできるように変化していくことが大切です。

 

子宮頸がん検診

HPVワクチンは子宮頸がんの7割以上を予防してくれますが、完全ではありません。
ワクチンを接種していても、子宮頸がん検診を受けることが推奨されています。
20歳以上の女性が対象となっており、2年に1度の検診を受けることが推奨されています。

子宮の入り口を小さなブラシでこすり、細胞を採取します。
その細胞を検査することで、子宮頸がんの兆しがないかを調べます。
もし早期に子宮頸がんや前がん病変(がんになるリスクが高い状態)が見つかった場合、治療がしやすくなります。
重症化する前に治療することができます。

子宮頸がんに対する有効な予防は 2つです。
1. HPVワクチン
2. 子宮頸がん検診

 

男性がHPVワクチンを接種するメリット

男性と性交渉をもつ男性を対象とした研究で、肛門の病変が予防されたと報告されています。
つまり、男性もHPVワクチンを接種することで、肛門がんを予防できる、ということです。

2020年には日本でも 4価ワクチンであるガーダシルが、男性にも適応拡大となりました。
しかし定期接種の対象にはなっていないので、自己負担での接種になります。

ガーダシルには陰茎にできるイボである尖圭コンジローマを予防する効果もあります。
多くの男性がHPVワクチンを接種することで、社会全体がヒトパピローマウイルスに感染しにくくなる『集団免疫』の状態になることができます。
その意味でも、男性がHPVワクチンを接種する意義は大きいと言えます。

 

信頼できる情報源

みんパピ!

日本産科婦人科学会

日本婦人科腫瘍学会

厚生労働省 HPVワクチンに関する Q&A

 

まとめ

この記事では子宮頸がんとヒトパピローマウイルス(HPV)の関係、そしてHPVワクチンによって子宮頸がんの発症を予防できることを説明しました。
日本では特にHPVのワクチンの有効性とメリットを再認識すべき時期です。
2022年4月からはキャッチアップ接種も始まります。
一人でも多くの人が、HPVワクチンによって子宮頸がんから守られることを期待しています。

この記事のまとめです。

 

まとめ

ヒトパピローマウイルス (HPV) の16型と18型が、子宮頸がんの原因として多い。これらはHPVワクチンで感染を予防することができる。

女性のうち 75人に 1人が一生の間に子宮頸がんになる。333人に 1人が子宮頸がんのために亡くなる。HPVワクチンによって、この大部分を減らすことができる。

ヒトパピローマウイルス は性交渉(セックス)によって感染する。一度でも性交渉があると感染リスクがあるので、はじめて性交渉する前の若い時期にHPVワクチンを接種することが有効。

小学校 6年生 ~ 高校 1年生になる年度 (12~16歳になる年度)の女性が定期接種の対象で、無料でHPVワクチンを接種できる。

HPVワクチンにはサーバリックス®(2価)、ガーダシル® (4価)、シルガード® (9価)がある。日本ではサーバリックス®とガーダシル®が、定期接種の対象となっている。

2022年4月 ~ 2025年 3月の期間、1997年度~2005年度生まれの女性を対象にキャッチアップ接種が行われる。この期間、対象者は公費によって無料でHPVワクチンを接種することができる。この年齢の女性にもワクチン接種するメリットはある。

HPVワクチンの安全性を示すエビデンスがいくつも報告されている。重篤な副作用との関連性はないと示されており、安全なワクチンである。

 

  • この記事を書いた人

眞喜志 剛

Save Bookの運営者です。ウェブサイトを通じて、エビデンスに基づいた医学の知識を一般の方も使えるようにすることを目指しています。 救急医、集中治療医。 ドクターヘリで活動するフライトドクター。 2009年 奈良県立医科大学卒業。 2021年 名古屋商科大学大学院ビジネススクール卒業。 日本救急医学会専門医 | 日本集中治療医学会専門医 | MBA

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