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健康格差 - 知識を得れば運命も変えられる!

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『健康格差』とは、社会的格差や経済的格差によって、人の健康状態に生じる格差のことです。

健康は個人の遺伝的な特性や、生活習慣に大きな影響を受けます。
それと同時に社会・経済的な状態によっても大きな影響を受けています。

一般的に社会的状況が良い人や、所得の多い人、およびその家庭に属する人は健康状態が良い傾向にあります。
逆に社会的状況が悪い人や、所得の少ない人、その家庭に属する人は健康状態が悪い傾向にあります。
もちろん社会的な格差だけで健康状態の良し悪しが決まるわけでもありません。

この記事の内容は、もしかしたら読者の方の健康管理に役立つものではないかもしれません。
しかし当ウェブサイト "Save Book"が取り扱うテーマとして重要なものだと考えています。

またデリケートな話題でもあると考えています。
ここで述べる内容には、特定の人や集団に対して批判する意図はありません。
社会全体として健康問題に向き合う目的を逸脱するものではないことを強調します。

個人だけでなく社会として健康レベルの向上に役立つことを願い、健康格差について解説します。

 

健康格差のエビデンス

社会・経済的状態によって人の健康レベルに差がある根拠をお示しします。

 

経済格差と健康

厚生労働省の調査による、日本のデータです。

平成 30年 (2018年)のデータです。
リンクのページでは世帯収入が年収 200万円以下と、600万円以上の世帯の人を分けて概略を述べています。
すぐに読み取れることは、年収が多い世帯では食事や運動といった健康習慣が良く、喫煙が少なく、歯の状態も良いことです。
逆に年収が少ない世帯では食事のバランスが悪く、運動が不足しており、喫煙している割合が多く、歯の状態も悪い傾向があります。

 

「社会経済的要因と健康・食生活」に関する調査レポートです。
こちらは2014年に作成された資料です。
経済的および社会的要因が、どのように健康に影響しているのかが示されています。

 

社会格差と健康

何をもって『社会格差』と言うのかは、取り扱うテーマによって異なります。
医学においても社会格差が意識されることはありますが、経済的状況を除いて比較されるのは『教育レベル』です。

教育レベルには社会格差が反映されやすく、様々な研究で教育レベルが要素とされることがあります。

社会格差が健康に影響する分かりやすい例として、『認知症』と教育の関係についての研究があります。
紹介するのは厳密には研究ではなく総説 (Review)ですが、その背景には研究で明らかにされたエビデンスが明確に存在します。
(Lancet 2020. PMIC 32738937)

英語でもあって難解な論文ですので解説します。
この論文では『認知症には予防可能な要素があり、それらを予防すべきである』と主張されています。
認知症の原因のうち、予防しうる要素は全体の 40%になるとされています。

 

■予防可能な認知症の要素

・人生の早期
教育の喪失

・人生の中期
難聴
外傷による脳のダメージ
高血圧
アルコール(≧21単位 / 週)
肥満

・人生の後期
喫煙
うつ状態
社会的な孤立
運動の不足
大気汚染
糖尿病

 

挙げられている要素の中に『教育』が含まれています。
教育を受けられなくなる原因は様々ですが、社会格差が理由になっていることは多いでしょう。
社会格差によって教育を受けられないことは、認知症を発症する一つのリスク因子です。

他にも社会格差が反映されやすい要素があります。
社会的な地位が低いことで『社会的な孤立』におかれる人もいるでしょう。
同様に『大気汚染』にさらされやすかったり、空気が汚染された職場にいるなどの状況にもおかれやすいでしょう。

『肥満』や『喫煙』、『アルコール量』、『運動の不足』は収入レベルが低い人に多い要素です。

この論文は社会格差が特定の健康問題に関与している一例に過ぎません。
紹介しきれないほど多くの研究が、社会格差と健康の影響について取り扱っています。
社会格差について扱っている、より適切なエビデンスもあるかと思いますが、ここでは Lancet誌に掲載された一つを紹介しました。

 

なぜ健康格差が生じるのか?

なぜ社会・経済格差が健康にも影響するのでしょうか?

その正確なメカニズムや因果関係を示すことはできません。
当然、それを証明するエビデンスも存在しません。
同じような社会的・経済的な条件の人でも、人それぞれの生き方が違います。

しかしそれぞれの格差によって、生活の仕方に一定の傾向があります。
そのため社会的・経済的な違いによって人々を観察すると、健康状態にも一定の傾向が認められます。

健康格差が生じる理由は、観察結果を通して推定できるのみです。

一般的にどのような理由が関与していると考えられているのか考えていきましょう。

 

経済的な格差

経済的な理由で医療やヘルスケアを受けにくいことが考えられます。

日本は国民皆保険制度のもとで全ての国民が保険診療を受けることができますが、それでも受診に伴って費用が発生します。
歯科診療を含めた診療を受けていないと、治療すべき健康問題が放置されている可能性があります。

また健康診断も同じく費用が発生します。
収入が少ない人ほど検診を受けている割合が少ないというデータがあります。

健康行動についても経済的格差の影響を受けるでしょう。
例えば食事については新鮮な野菜や果物といった健康的なものを選びにくくなり、安価で加工されたものが増えると考えられます。
運動習慣についてもトレーニング・ジムの利用やプログラムへの参加がしにくくなり、スポーツ用品に対する費用を抑える傾向があるかもしれません。
また労働時間が長いと運動する時間が得られないこともあります。

自動車の安全性能についても、安全性が高いのは高価な車である傾向があります。

 

教育の格差

生活習慣病など多くの研究で、教育水準が人生を通じた健康状態に影響を与えることが示されています。
多くの場合、教育水準が低いと健康状態も好ましくないという関係にあります。

教育水準については経済水準を反映しているのかもしれません(代理アウトカム)。

また長期的な視点で健康管理することに関係しているかもしれません。

 

周囲の環境による影響

社会的格差は人間関係や居住環境にも影響すると考えられます。

社会的・経済的な水準が低いと、アルコール消費量や喫煙率が増加する傾向があります。
家族や交友関係にアルコールや喫煙の習慣があると、その影響で本人も同じ習慣を身につける傾向があると考えられます。

また従事する仕事にも、有害なものを取り扱う仕事、清浄ではない空気にさらされる仕事が増える傾向にあるでしょう。
有害なものを避けたくても、生活するために避け難い状況にあるかもしれません。

また日本ではあまり意識されませんが、感染症の影響もあるかもしれません。

 

その他の理由

ここまでに解説した理由の他にも、社会・経済格差が健康に与える影響はありそうです。

心理的ストレス、社会的支援の状態、情報量の差などが挙げられるでしょう。

Wikipediaにも『健康格差』の項目がありますので紹介します。

健康格差について考えること

格差のない社会が理想とされますが、現実には格差があります。

医師として医療現場を見ていると、それぞれの人が所属する集団が違えば認識にも違いがあることを実感します。
それと同時にお互いの集団に対しての理解が少ないことや、距離を感じることがあります。
筆者自身も他の集団について理解が及んでいないことがあるでしょう。

そして集団の間で理解がされていないことには悪意がない場合が多いでしょう。
格差の存在も意識されにくいのだと思います。

一人でも多くの人が健康格差についてあらためて考えることで、社会全体の医療への関わり方が公平な状態に近づくのではないかと考えています。
当ウェブサイトでは社会的・経済的状況に関わらず、同じようにアクセスできる健康資産は『情報』であると考えています。
その情報による利益が広く行き渡るために、あえて健康格差についても考えておきたいと思います。

 

健康格差は意識されにくい

人々は似た環境や条件の人が集まって生活することが多いです。
学校や職場は、意識しなくても社会・経済状況が似た人が集まって生活します。

医療従事者、特に医師は社会・経済状況が恵まれている場合が多いです。
私立の医学部には学費を払える経済状況の生徒が集まりますし、国公立の医学部でも高収入の家庭の出身者が多いです。
医学部を受験できる水準に達する教育を受けられるという条件によるものかと思われます。
そして格差の存在について知ることはありますが、それが医療にどのような影響があるかについて深く考えることは少ないのが実情です。

また社会的ポジションが低かったり、収入の水準が低かったりすると、健康管理を意識することも少なくなります。
当ウェブサイトにアクセスしてくださる方は、健康意識がもともと高いグループだと思われます。
そのため、健康意識を持ちにくい人に教育することは重要であり、また難しい課題でもあります。

 

健康格差を跳ね返す

社会的・経済的なポジションが低いこと自体は、健康状態に影響するわけではありません。
これらは間接的に健康に影響を与えているに過ぎません。

例えば、食事の内容が不健康であること、運動量が少ないことは健康格差の原因です。
その要素を改善することは、あまりお金をかけなくてもできる部分があります。
歩くことは誰でもすぐに実行できる行動です。
格差を逆転することも可能でしょう。

知識を身につければ、格差を跳ね返すことができます。
役立つ知識をまとめた記事を紹介します。

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健康問題については、個人の責任や努力だけではコントロールしにくい要素があることを多くの人に知っていただきたいと思っています。
それによって減らせる不利益もあるはずです。

そして全ての人にとって、情報は公平に手に入るものだと信じています。
新型コロナウイルスの流行を集団として抑制できたように、皆さま一人ひとりが社会の健康のために行動してくださることを願っています。

たった一人のヒーローが世界を救う時代ではありません。
皆さまが健康格差について考え、社会から少しでも病気を減らせるようなアクションをとれば、皆さま自身がヒーローになれます!

 

  • この記事を書いた人

眞喜志 剛

Save Bookの運営者です。ウェブサイトを通じて、エビデンスに基づいた医学の知識を一般の方も使えるようにすることを目指しています。 救急医、集中治療医。 ドクターヘリで活動するフライトドクター。 2009年 奈良県立医科大学卒業。 2021年 名古屋商科大学大学院ビジネススクール卒業。 日本救急医学会専門医 | 日本集中治療医学会専門医 | MBA

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