一般 医学

エビデンスをかんたんに

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エビデンスの難しさ

論文などで示されるエビデンスは難しい言葉で記載されています。
医師であっても簡単には理解できません。
科学的に厳密に表現することを求められているため、難しい記述になってしまうのです。

そんなに難しい知識を、一般の人に理解させることはできるのでしょうか?
切り出して、再構成することで、医学は理解しやすいものに変換できます。
そうやって情報を提供することがSave Bookの役割です。

 

論文での表現

エビデンスが論文で示されるときの例をお示しします。
喫煙について、いっさい喫煙しない人、調査期間の前に禁煙して継続できている人、調査期間中に禁煙した人、および喫煙し続けた人の肺の機能についての研究です。
何となく、喫煙しない人の肺機能が良くて、喫煙する人の肺機能が悪い、という予想ができると思います。
(Lancet. 2005: PMID 15885295)

結果は以下の通りでした。
6,654人を対象に、1991~93年時点で20~44歳の年齢の人を調査し、1998~2002年まで追跡した。
全く喫煙しないグループと比較したFEV1の低下は、男性では禁煙を継続できたグループで低く(差異の平均値は 5.4mL/年, 95%信頼区間は 1.7~9.1)、続いて調査期間中に禁煙したグループが低く、(2.5mL/年, 95%信頼区間は -1.9~7.0)、そして喫煙者では大きかった(-4.8mL/年, 95%信頼区間 -7.9~-1.6)。女性ではそれぞれ1.3mL/年 (-1.5~4.1)、2.8mL (-0.8~6.3)、-5.1mL (-7.5~-2.8)だった。これらの結果において有意な性差は無かった。

非常に難しいと思います。
以下の要因が難しくしているのではないでしょうか。
1. 医学用語が難しい
2. 統計学用語が難しい
3. 表現が難しい

これを一般の方々が分かりやすい言葉に言い換えるのであれば、以下のようになります。
『禁煙が肺に及ぼす効果についての研究があります。この研究ではFEV1という、最大限まで息を吸ったあとに 1秒間で吐き出せる空気の量を調査しました。いっさい喫煙しないグループを基準に評価したところ、調査期間の前から禁煙し続けていたグループと、調査期間中に禁煙したグループでは息を吐き出す機能の低下が起こりにくいという結果でした。しかし喫煙を続けていたグループでは、息を吐き出す機能が大きく低下していました。これは男女ともに確認された効果です。ゆえに禁煙することは肺の機能にとってメリットがあります。』
(ちなみにこの研究では、肺機能のために太らないように体重管理することも重要である、ことも述べられています。)

ここまで来れば、もともとの論文よりも分かりやすいのではないでしょうか。
実際にSave Bookで情報を提供するときには、文章のレイアウトを分かりやすくしたり、分かりやすい図表を用いたりして、さらに伝わりやすい表現にします。

また医学としての厳密さにこだわるよりも、そのエビデンスで得られる知識を実践した場合のメリットをお伝えします。
すべてを厳密にリアルに表現するよりも、伝えたいメッセージを伝え、良い結果を導くことが重要だと考えています。

 

どのように伝えるか

エビデンスがそのままでは難しいことをお伝えしました。
そして分かりやすい表現にできることもお伝えしました。

ではどのように変換すればいいのでしょうか?
分かりやすくする一方で、誤解が生じないようにすることも大事です。
情報が変形しないようにすることにも、注意を払わなければいけません。

Save Bookが正しい医学の知識をお伝えするために、拠り所としている方法があります。
医学の知識を患者さんや一般の人、健康政策の策定者に伝えるにはどうすればよいか、科学的に検証した方法です。
(BMJ. 2020: PMID 32699132)

分かりやすい部分だけ紹介します。
量が多いので、『分かりやすくするための努力をしてるんだなあ』と思っていただければ、読み飛ばしても大丈夫です。

  • その情報が本人にとって関係があることが簡単に分かるようにする。
  • キーとなるメッセージが分かりやすいようにする。
  • 情報を受ける側にとって馴染みのある言葉を使う。
  • 扱う問題をはっきりさせ、それに対する意見や提案もはっきりさせる。
  • 情報を受ける側が関心をもった事柄は深く説明するが、その場合も分かりやすい言葉を心がける。
  • 情報を伝えるときには重要なメリットとデメリットの両方を伝える。エビデンスが無いのであれば、それも伝える。
  • アウトカムについて、その大きさと確からしさを伝える。これによってミスリード(誤解)を防ぐ。
  • 言葉と数字は分かりやすく伝わるようにする。
  • メリットとデメリットを表にして示す。
  • そのエビデンスが示す本当の効果を、間違って理解させないように注意する。
  • 『統計学的に有意な』と『重要な』を混同させないようにする。
  • 『エビデンスがない』ことと『効果がない』ことを混同させないようにする。
  • 背景となる情報を分かりやすく与えることで、メリットとデメリットを理解した上で意思決定しやすいようにする。
  • 何に基づいてその知識が存在しているのかを伝える。どの時点での情報なのか、だれが調べたのか、そして利益相反はないのか、を伝える。

これらを心がけることで、正しい医学の知識が、分かりやすくお伝えできると信じています。
場合によっては分かりやすさのために、情報をシンプルにしてお伝えすることも行います。

 

補足 『統計学的に有意』や『エビデンスがない』

上記のリストの中に表れた事項について、せっかくの機会なので解説します。

まず『統計学的に有意』というのは、研究の結果 明らかな効果や関連性があることが示された、という意味です。
偶然による要素を排除しても、明らかな差があるというときに使います。
例えばサイコロは本来 1から6の目がすべて 1/6の確率で出るはずですが、あるサイコロを1万回投げたときに、明らかに1の目が出る回数だけが多い、ということをデータで示せた場合、『このサイコロは1の目が出る確率が、統計学的に有意に高かった』と言います。

『統計学的に有意』であることは、『重要な効果をもつ』ことや、『大きな効果をもつ』こととは違います。
もし『外傷においてこの薬剤を使用した場合、出血死する可能性を6分の1減らすことができることが統計学的に示された』というのは大きな効果を示していることになります。
しかし同じ状況で『出血死する可能性を10,000分の 1減らすことができることが統計学的に示された』というのであれば、あまり大きな効果があるとは言えません。

次に『エビデンスがない』ということについて説明します。
これは『その効果を検証した研究が無い』ことを意味するのであって、『効果がない』ことを意味するのではありません。

例えば『飲むだけで体重が落とせるジュース』というものが販売され、これに対して『エビデンスがない』と反論があったとします。
このジュースが本当に体重を減らす効果があるかどうかは、ジュースを飲むグループと飲まないグループをそれぞれ相当な数で人を集め、実際に数ヶ月間でジュースによって体重が減ったかどうかを比較して検証しなければいけません。
しかし多くの場合、こういった商品についての厳密に研究した事例は存在しません。
エビデンスがないのです。

ではエビデンスがないから、このジュースには効果がない、と言い切れるのでしょうか?
もしかしたら検証していないだけで、実際に厳密な研究をしてみると、たしかに体重が減るのかもしれません。
したがって、研究をしてみないことには、効果の有無を判断することはできません。

例えばこのような研究結果があれば、このジュースには『統計学的に有意な体重減少の効果がある』というエビデンスが認められるのかもしれません。
『新しく販売されたジュースを飲むグループ 300人、ジュースを飲まないグループ 300人を比較した。それぞれのグループの年齢、性別、調査前の体重、運動習慣、食事の量は同様で、グループ間で異なるのはジュースを飲むのか飲まないのかということだけである。それぞれ3ヶ月間、ジュースを飲むグループは 1日 350mlのジュースを飲み、ジュースを飲まないグループは 1日 350mlの同じカロリーを含む別の飲み物を飲んだ。3ヶ月間の体重の推移を比較すると、ジュースを飲んだグループでは平均 3.5kg体重が減少したのに対して、ジュースを飲まなかったグループは体重の変化が認められなかった。』

 

おわりに Save Bookの約束

この記事ではエビデンスを記述する医学の言葉が難しいこと、そしてそれを分かりやすくして伝える方法があることについて説明しました。

他にも検証されている方法があり、それらも Save Bookが情報をお伝えする上での拠り所としています。
これからも医学の情報を伝えやすくするにはどうすればよいか、というテーマについての研究がされると思いますので、少しでも効果的に知識を伝えるための努力を続けることを約束します。

皆様には信頼できる健康管理の知識が届きます!

  • この記事を書いた人

眞喜志 剛

Save Bookの運営者です。ウェブサイトを通じて、エビデンスに基づいた医学の知識を一般の方も使えるようにすることを目指しています。 救急医、集中治療医。 ドクターヘリで活動するフライトドクター。 2009年 奈良県立医科大学卒業。 2021年 名古屋商科大学大学院ビジネススクール卒業。 日本救急医学会専門医 | 日本集中治療医学会専門医 | MBA

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